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Vol.14

揺るぐことのない信念。
それが“ユーザー視点のデザイン”。

Vol.14

揺るぐことのない信念。それが“ユーザー視点のデザイン”。

現在アッシュコンセプトは、大きく4つの事業を展開している。ひとつ目は自社ブランドである『+d(プラスディー)』をはじめとしたオリジナル商品を開発するメーカーとしての機能。次に国内外で約10店舗を展開する『KONCENT(コンセント)』とオンラインを含めた小売。さらに地元の下町と日本各地にある産地の応援。そして今回少し話をする企業とのデザインコンサルティングである。

アッシュコンセプトを創業して少し経った頃、とある電話を受けた。受話器の先の相手は、前職(マーナ)から付き合いのある企業の代表。プラスチックを主力とした生活用品の製造を行う会社だった。相談の内容は「ゴミ箱のデザインを頼みたい」とのこと。

私は驚いた。前職やアッシュコンセプトでこれまでデザインを手がけてきたのは、あくまで自社商品である。「他の会社の商品をデザインしてもいいのかな……」そんなことを思いながら、ヒアリングをするために同社の本社工場へと足を運び、そこでさらに驚いた。ショールームには「この会社はゴミ箱だけをつくっているのか」と思うほど大量のゴミ箱が並んでいたが、「家に置きたい」と思えるものがひとつとしてなかったのである。それぞれの特徴や開発の経緯について話を聞いてみると「他社もこうつくっている」「他社より少しでも安くつくる」など、ライバル企業との競争だけに主眼が置かれていることがわかった。結果として、ユーザー視点のモノづくりができていなかったのだ。

プロジェクトをスタートするにあたって、私は「絶対に売れるゴミ箱をつくります」とクライアントに宣言すると同時に、開発を進める上での決まり事を設けた。まず「つくるのは1タイプのみ。もしそれが売れなければ、すぐに私をお払い箱にして構わない」ということ。その代わり「必ず私が言った通りにつくる」というものだ。

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初代kcud。ペダル式ダストボックスの定番として今なお人気の製品。

初代kcud。ペダル式ダストボックスの定番として今なお人気の製品。

開発は簡単には進まなかった。開発担当も技術担当も男性ばかりだったことが影響したのか、前述の通り、生活者としての視点が欠けている。私はその問題を解決すべく、前職で一緒に仕事をしていたデザイナーの野田純江氏に声をかけ、家庭にも馴染むようなシンプルな白いゴミ箱をつくることにした。しかし当時の家庭用ゴミ箱にインテリア性が重視されたものや、ユーザー視点から開発されたものは少なく、先方は「汚れの目立つ白いゴミ箱など、前例がない」と驚き、反対してくる。そこで「本当に『白いゴミ箱』にニーズがないのか」を知るために、モックアップをつくった上で幅広い年齢層の主婦を対象にモニター調査を実施したところ、全員から「今すぐにでも自宅にほしい」との回答を得られたのだ。それでもなおクライアントは製品化を躊躇したが、最終的には「私が言った通りにつくる」という約束を盾に、なんとか開発を進めていった。

そんな紆余曲折を経て、白くシンプルなフォルムをしたゴミ箱が出来上がった。名前は『kcud(クード)』。最初につくったモデルから、シリーズ展開を繰り返し、また販売元を変えながら、今もアッシュコンセプトの主力商品に位置するロングセラーである。これは余談だが、初代『kcud』ができたタイミングで、某有名インテリアショップの代表に電話をかけて、商談の場を設けてほしいとお願いしたことがあった。実物を見る前は「ゴミ箱は、暮らしの“見せたくない部分”なので、申し訳ないけど売らないと決めている」と断られたが、『kcud』を見た瞬間に「このゴミ箱ならすぐに売りたい」と考えを変えてくださった。実際に山のように陳列をしてくれて、飛ぶように売れていったのも嬉しい記憶だ。

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レッド・ブラウンの色使いは、空間のアクセントとなるだけでなく、ゴミの分別もわかりやすくなる。

結果的に初代『kcud』* は累計300万個の販売を達成した大ヒット商品となった。その理由はシンプルで、使う人、つまり生活者の視点に立ったモノづくりを徹底したからだ。あくまでユーザーの視点でデザインする。それが自社ブランドだろうと、外部企業との取り組みだろうと、決して揺るぐことのない私たちの信念である。

こうしてスタートしたデザインコンサルティングは、現在アッシュコンセプトの主力事業へと成長し、安定的な経営のひとつの要となっている。
*現在の『kcud スリムペダル #30』

Vol.15に続く

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