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Vol.17

売り方までをデザインするための挑戦、
『KONCENT』。

Vol.17

売り方までをデザインするための挑戦、『KONCENT』。

20124月。本社を蔵前駅前のビルに移転したタイミングで、直営店『KONCENT(コンセント)』の1号店をつくった。きっかけは前述の通り、現在は役員を務める中森大貴から「小売店を持ちたい」という声が上がってきたから。しかし正直に告白すると、私は少し抵抗があった。店舗を運営するということは、当然ながら土曜日や日曜日、祝日も仕事をしなければならない。性根の部分が遊び好きである私にとって、それはすぐに首を縦に振れる提案ではなかった。

しかし最終的には、中森に「君が責任を持ってやるなら、やってみなさい」と指示を出すことで、進めることにした。もともとスタッフたちが本気で「やりたい」と思って言ってきたことなら、絶対に「やめろ」とは言わないと決めている。会社として全力で協力して、仮に失敗したら、その時にやめればいい。私が美術の道に進んだのも、高島屋に就職したのも、すべて自分が本気で「やりたい」と思ったから。同じように思い切って本気の挑戦をしてほしい。今もスタッフにはそう伝えつづけている。

また、その時点ですでに創業から約10年が経ち、店舗で実際にお客さんと接する販売員が、きちんと商品の説明をすれば販売につながること、それと同時に、どれだけいいものであっても店舗の奥の方に置かれていると売れないことが分かっていた。自分たちが一生懸命につくった商品なのだから、自分たちで一生懸命に売る。商品をデザインし、売り場もデザインし、売り方までもデザインしたい。そんな会社としての思いを実現するための新しい挑戦が『KONCENT』だった。

KONCENT アッシュコンセプト

KONCENT 蔵前本店(2020年、移転のためクローズ)。「蔵前の玄関口」として、独自に作成した周辺エリアの地図も配布した。

KONCENT アッシュコンセプト

吹き抜けで開放のある空間や、中2階が印象的な店内。旧本社の1階に位置している。

最初の約束通り、店舗の運営は中森に任せていた。したがって私が決めたことは多くはない。例えばお客さんが来店した時には「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と言うこと。また什器にはそれほどこだわらなくていいが、ライティングだけはしっかりとして、商品をきれいに見せること。それくらいである。実際に現在に至るまで、ディスプレイに使っているのは、かつて私が設計した450×900mmの「ロの字型」をしたシンプルな木の棚だ。最近はそこに400×800mmなど別のユニットをいくつか追加し、それらを縦横に組み替えることで、自由にレイアウトを楽しみ、例えば「白い方がいい」と感じる時は白い布を敷く。そんな方法をとっている。あくまで主役は商品。什器でカッコつける必要はないのだ。

そんな風にして出来上がった『KONCENT蔵前本店』だが、オープン当初は蔵前の街に人が少なく、売上が11万円にも満たない日も少なくなかった。しかし中森を中心とした店舗スタッフの尽力もあり、次第に盛り上がりを見せていく。さらに渋谷の『Bunkamura』や丸の内の『KITTE』、六本木の『TOKYO MIDTOWN』など、さまざまな商業施設からお声がけをいただくことで多店舗展開を進め、また、現地のパートナーとライセンス契約を結ぶことで、海外へも出店を広げた。メルボルン*に新しい店舗を出す際には、数人のスタッフと一緒に現地へと向かい、自分たちでペンキを塗り、3日間で内装を完成させたのもいい思い出である。
*現在はWeb shopのみ運営

KONCENT アッシュコンセプト

KONCENT Melbourne オープン時の様子。メイドインジャパンのプロダクトが揃うショップとして注目を集め、現地の方たちで賑わった。

自社で運営する『KONCENT Web Shop』や、アマゾン・楽天といったECモールでの販売が主流となった今もなお、実物を手にとり、スタッフの話を聞きながら、商品に込められた思いや物語を知ることができる実店舗は、非常に重要な存在である。しかし新型コロナウイルスの影響で、どの店舗もかつてない苦境に立たされた。正直に言って、この2年間、数字的には目も当てられないほどの結果となってしまっている。そんな苦しい状況の中において、どのように集客力を高めていくか。スタッフの知恵を借りながら今もさまざまな展開を計画しているところだ。私たちが何より大切にすべきユーザーとのタッチポイントとして、これからも変わらず大きな役割を担っていくためにも、『KONCENT』の動きによりいっそうの注目を集めていきたい。

Vol.18へ続く

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