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Vol.16

“黒船作戦”で、海外へと出展。
今は“規模”より“価値”を追い求めて。

Vol.16

“黒船作戦”で、海外へと出展。今は“規模”より“価値”を追い求めて。

この連載の何回か前にお伝えしたとおり、オリジナルブランド『+d(プラスディー)』は、ニューヨークの『MoMAデザインストア』から販売をスタートさせた。その結果「海外で売れている」という事実が、国内の販売戦略にも良い影響を与えることを再認識する。このやり方を「黒船作戦」と名づけ、それ以降も海外での評価を高めることに注力し続けた。特に力を入れたのは展示会への参加だ。

これまでイタリアの『ミラノサローネ』やフランスの『メゾン・エ・オブジェ』など、国際的に高い評価を受ける数々の展示会に出展してきた。その中でも思い入れが強いのがドイツ・フランクフルトで行われる『アンビエンテ』である。前職(マーナ)から何度もそこに訪れていた私は、『+d』をはじめとする自社の商品を、アンビエンテの中でも特にデザイン性に優れたアイテムが並ぶ『Loft ホール』と呼ばれるスペースに展示させなければ意味がないと強く意気込んでいた。しかし正規のルートで申し込んでもなかなか入るのは難しい。

そうなると「どれだけ知恵を使うか」の勝負である。まずは例年どおり、来場者としてLoftホールに足を運ぶ。そしてそこにブースを持つオランダのメーカーのスタッフに声をかけ、自分たちの商品を見せながら「来年、もう少し広く借りて、エリアの半分を貸してほしい」と打診してみた。すると「すごく面白いものをつくっているね」「集客につながるのであればOKだ」と共同出展を快諾してくれたのだ。

この話には続きがある。上記の裏ルートによって展示スペースを得た我々のもとに、アンビエンテを運営するメッセフランクフルト社の日本法人スタッフが訪れた。なにせそこは、日本人はほとんど出展していないLoftホールである。「なんでここにいるの?」と目を丸くする彼らと「実は間借りをしていまして……」と冗談混じりの会話を交わした。そのタイミングから現在に至るまで深い関係を築いているのが、メッセフランクフルトジャパン株式会社の梶原靖志代表と、柴田貴光氏をはじめとする同社のスタッフの皆さんである。

アッシュコンセプト

『アンビエンテ』Loft ホールにて、オランダのメーカーからブースの半分を間借りして出展した時の写真。

国内の展示会も忘れてはいけない。毎年、新商品の登場の場として出展しているのが、メッセフランクフルトジャパンが主催し、規模や集客力も大きい『インテリア ライフスタイル』だ。「いちばん奥で構わない。使っていない通路などをつなげて、広いスペースがほしい」。そんな我々の無茶なお願いを、先述の柴田氏の計らいで何度も実現していただいた。入り口から最も遠いアッシュコンセプトのブースが盛り上がっていれば、来場者はそこに来るために他の出展社をすべて見ることになり、全体としても活気付く。そんな風に考え、イタリアのメーカーから機材を輸入する株式会社秀光の力も借りて、装飾やディスプレイの方法には徹底的にこだわった。

アッシュコンセプト

『インテリア ライフスタイル 2022』出展時の写真。面積約180㎡の広々としたブースにて全13ブランド・約50点の新作を展示した。

話は変わるが、梶原代表と抱いてきた構想がある。それは「海外にも負けない世界的な展示会を、東京で開催する」というもの。ミラノやパリ、ニューヨーク、上海などでは、街全体を使うような大規模な展示会が行われている。それをアジアの中心としての役割を担う東京でもやるべきだと考えた。名前は『ミラノ・サローネ』をもじって『トーキョー・コヨーヨ(東京来ようよ)』。そんな風に話は盛り上がり、実際に準備もスタートさせていた。しかし状況は一変する。そう、新型コロナウイルスだ。国やジャンルを問わず、世界中のほぼすべての展示会が中止に追いやられたのは記憶に新しい。我々も新作を登場させる場所や機会を奪われ、悶々とする日々が続いた。

そんな苦しい状況も少しずつ収束し、2021年にはメッセフランクフルトジャパンとの共同特別イベントとして、アッシュコンセプト独自の展示会『h concept × LIFESTYLE SALON』を開催し、確かな感触を得ることができた。「大切なのは、規模ではなく、価値」。今はいったんそういう考えに落ち着き、梶原氏と仕込んでいた「東京で世界的な展示会を」という構想は保留中だ。次はアッシュコンセプト20周年を祝う企画も練っているので、それも楽しみにしていただきたい。

Vol.17に続く

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