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Vol.12

記念すべき第一作が、『+d』の象徴となるアイテムに。

Vol.12

記念すべき第一作が、『+d』の象徴となるアイテムに。

2002年、アッシュコンセプトを創業してすぐに、“マスターピース”と呼べる商品が、オリジナルブランド『+d(プラスディー)』のファーストプロダクトとしてリリースされた。名前は『アニマルラバーバンド』。デザインユニット、パスキーデザイン(大橋由三子氏、羽根田正憲氏)による傑作中の傑作であり、私がずっと信じてきた“デザインの力”を確信に変えてくれた一作だ。

動物の形を模した輪ゴムであるこのアイテムを知ったのは、私がマーナを退職する直前。見た瞬間に「これだ!」「素晴らしい!!」と感動に近い衝撃を受けたのをよく覚えている。その時点では商品化に至ってなかったものの、とあるデザインコンペで受賞するなど、すでに一定の評価は受けていた。もちろん私も「今すぐ売り出したい」と思ったが、お伝えしてきた通り、当時の日本のほとんどのメーカーでは、どれだけ優れたデザインだろうと、またどれだけヒットしていようと、デザイナーの名前が世の中には出ない。そんな事情もあり、二の足を踏んでいた。そこから少し時間が経ち、私はデザイナーにフォーカスを当てることを使命としたアッシュコンセプトと『+d』を設立。その記念すべき第一弾として、この商品の開発を進めることとなった。

パスキーデザイン

代表 大橋由三子氏(写真左)と羽根田正憲氏(写真右)によるプロダクトデザインユニット。1995年設立。

『アニマルラバーバンド』の優れた点はいくつだって挙げられる。そもそも「輪ゴム」は、すでに誰もが使っていて、疑うことなく「これが完成形だ」と信じきっていたアイテムである。そこにまだデザインをする余地があったという点にまず驚いた。また使い捨てされることの多い輪ゴムに、愛着を沸かせられている点も素晴らしい。というのも、例えば「モノを大切にしよう!」と言葉にして伝えるのは、どこか野暮な感じがする。しかし『アニマルラバーバンド』なら、そんなことを声高に叫ばずとも、使った後に捨てようとする人はまずいない。さらに一般的な輪ゴムと違って、道に落ちているのを見て、素通りする人もほぼいないだろう。手にした瞬間に「大切にしよう」と思える。それをデザインの力で叶えていることに感動した。小さな子どもが遊び道具にして、万が一口にしたとしても安全なように、哺乳瓶の乳首にも使われているシリコーンゴムを用いるなど、使い手の目線にも立っている。

「エコの意識を!」などと強制しても、使い手と心から通じ合えるとは思えない。大切なのは“命令”ではなく“メッセージ”。『+d』のスローガンにもなっている「This is a message.」というブランドの信条が見事に具現化されており、その象徴として今なお多くのユーザーに選ばれ続けている『アニマルラバーバンド』は、晴れて世の中へと送り出されることとなった。

アニマルラバーバンド

発売20周年を迎えたアニマルラバーバンド。20周年を記念して、ヒトをモチーフにした『Peace』(写真中央)が加わった。

しかしすべてが順調に進んだわけではない。パスキーデザインのおふたりの希望もあり、紆余曲折を経て、デザインアイテムを扱う店舗として世界最高峰の存在として名高い『ニューヨーク近代美術館』、通称『MoMA』のデザインストアで販売できることとなった。それ自体は喜ばしいのだが、あろうことかその初回納品分に不備が出てしまう。ゴムを伸ばすとブチブチと切れるのだ。不良品の回収と再生産にかかるコストは300万円。潤沢な資金がない創業時においては相当な痛手だったが、そのすべてをつくり直すことにした。アッシュコンセプトとしてはじめての納品であり、最初でつまずくとその後もずっとつまずいてしまう。だから300万を捨てても、信頼を勝ち得なければならない。そう感じて苦渋の決断をした。本当に辛い選択だったが、今となってはそれでよかったと思っているし「アメリカに送る前に、不良品に気づけてよかった」と前向きに考えられるのは、天性のポジティブ思考のおかげだろうか。

そうして『アニマルラバーバンド』は、無事にMoMAデザインストアで、そして国内の店舗で販売をスタートさせ、翌2003年にはグッドデザイン賞 中小企業庁長官特別賞を受賞。はじめにつくった『Zoo』に続いて、『Pet』、『DINO』、『Farm』、ついには今年2022年、20周年を記念し、ヒトをモチーフにした『Peace』が加わるなど、シリーズ展開をしながら、ロングライフデザインを体現している。次回、このようにしてブランドの歴史をスタートさせた『+d』について、少しお話をしてみたい。

Vol.13に続く

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