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Vol.13

今も変わらないブランドの根幹。
大切なのは、信頼関係と絆。

Vol.13

今も変わらないブランドの根幹。大切なのは、信頼関係と絆。

2000年代前半に国内のデザインシーンを席巻した『POLY-SITE(=ポリサイト)』というチームがいたことをご存知だろうか。おおよそ商品として世の中に出ることのないであろう、自由かつ奇抜な作風で、コアな層を中心に高い評価を得ており、私も大ファンだった。

2002年、そのPOLY-SITEのメンバーのひとりであり、『浅野デザイン研究所』の代表を務める浅野泰弘氏の事務所を訪ねた時のこと。用事を済ませて帰ろうとすると、エントランスの床に、靴一足ほどの大きさのアルミの物体が置いてある。「浅野さん、これは何?」私がそう尋ねると、同氏はそれが彼の作品であり、「傘立て」であることを教えてくれた。当時の傘立ての主流だった、陶器製の大きな壷のような形や、背の高いステンレス製のラック状のものと比べ、そのサイズは遥かに小さくて場所を取らず、かつ濡れた傘と乾いた傘を別々に立てられるという。手にとってよく見てみると、アイデアやコンセプト、デザインには惹かれたが、素材的に内側が磨けないこともあり、傘を入れるとボロボロになってしまう状態で、そのままでは到底使い物にはならない代物だった。そこで私は、自分自身が得意な素材である『ゴム』を用いて、その傘立てをつくってみないかと提案。こうして開発をスタートしたのが『アニマルラバーバンド』と並ぶ初期の『+d(プラスディー)』の代表作『スプラッシュ』である。

+dスプラッシュ

アッシュコンセプトの第2号製品として2003年に発売。水たまりにできる水はねをイメージしている。

そんな経緯で始まった『スプラッシュ』の開発を行う中で明確になったことがある。それはブランドの根幹となる考え方であり、『+d』が果たすべき役割を指し示すものだ。つまり時に“作家性”や“アート性”が強く押し出された結果、ユーザー目線から離れていく傾向にあるデザイナーの発想と、使う人のことを考えたアッシュコンセプトのアプローチが上手く組み合わさった時に、優れたプロダクトが完成するということ。そしてその両方を併せ持たなければ『+d』の商品として十分ではなく、デザイナーとwin-winの関係も築けないということである。 そこに主眼を置きながらモノづくりを行い、完成したアイテムを通してデザイナーのことやデザイナーの考えを伝え、広めていく。それこそが『+d』が目指すものであり、同時に担うべき役割であると確信を得ることができた。その思いは今も何ひとつ変わっていない。 変わらないのはデザイナーとの契約に関しても同じである。『+d』ではいわゆる「イニシャルデザインフィー*」というものがなく、基本的には最初にデザイン費を支払わない。そうではなく、販売スタートから様々な改善・改革を行い、商品が売れる限り、決められたロイヤリティーを支払うことで、長期的な取り組みを続けていく。それが『+d』のやり方である。 *初期に支払われるクリエイティブ費用 また契約の際に交わす書類は、A4サイズの覚書1枚だけ。そこに書かれているのは、先述のパーセンテージと「何か問題があれば、互いに話し合う」といったほんの少しの決まり事のみ。そしていよいよ発売間近となった時には、「Thank you for the good design」という感謝の念を伝える言葉と、私のサインを添えたサンキューレターとともに、完成した商品をデザイナーに送ることにしている。すべては人としての信頼関係ありき。そんな思いを込めた契約だ。
名児耶秀美

完成した製品とともにデザイナーに送るサンキューレター。思いを込めて手書きのサインを添えている。

パスキーデザインによる『アニマルラバーバンド』と、浅野泰弘氏による『スプラッシュ』の2作をリリースさせる中で定まっていった『+d』が大切にしたい価値観やルール、そして契約方法。それはブランドの立ち上げから20年が経った今も同じだ。そんな考え方に共感してくれた数多くのデザイナーたちが「『+d』なら自分の作品を、世の中に出してくれるかも……」と集まり、すべてのデザイナーが本当に真剣に取り組んでくれている。私もその思いにできる限り応え、デザイナーの名前の公表と、売れたぶんの対価を提供する形で、彼ら・彼女たちを応援してきたつもりだ。その中でうまれた私たちの絆は宝物であり、そしてまた今日も新しいデザイナーとの出会いを、そして思わず心が動くような作品との出会いを心待ちにしている。

Vol.14に続く

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