2000年代前半に国内のデザインシーンを席巻した『POLY-SITE(=ポリサイト)』というチームがいたことをご存知だろうか。おおよそ商品として世の中に出ることのないであろう、自由かつ奇抜な作風で、コアな層を中心に高い評価を得ており、私も大ファンだった。
2002年、そのPOLY-SITEのメンバーのひとりであり、『浅野デザイン研究所』の代表を務める浅野泰弘氏の事務所を訪ねた時のこと。用事を済ませて帰ろうとすると、エントランスの床に、靴一足ほどの大きさのアルミの物体が置いてある。「浅野さん、これは何?」私がそう尋ねると、同氏はそれが彼の作品であり、「傘立て」であることを教えてくれた。当時の傘立ての主流だった、陶器製の大きな壷のような形や、背の高いステンレス製のラック状のものと比べ、そのサイズは遥かに小さくて場所を取らず、かつ濡れた傘と乾いた傘を別々に立てられるという。手にとってよく見てみると、アイデアやコンセプト、デザインには惹かれたが、素材的に内側が磨けないこともあり、傘を入れるとボロボロになってしまう状態で、そのままでは到底使い物にはならない代物だった。そこで私は、自分自身が得意な素材である『ゴム』を用いて、その傘立てをつくってみないかと提案。こうして開発をスタートしたのが『アニマルラバーバンド』と並ぶ初期の『+d(プラスディー)』の代表作『スプラッシュ』である。
アッシュコンセプトの第2号製品として2003年に発売。水たまりにできる水はねをイメージしている。
完成した製品とともにデザイナーに送るサンキューレター。思いを込めて手書きのサインを添えている。
パスキーデザインによる『アニマルラバーバンド』と、浅野泰弘氏による『スプラッシュ』の2作をリリースさせる中で定まっていった『+d』が大切にしたい価値観やルール、そして契約方法。それはブランドの立ち上げから20年が経った今も同じだ。そんな考え方に共感してくれた数多くのデザイナーたちが「『+d』なら自分の作品を、世の中に出してくれるかも……」と集まり、すべてのデザイナーが本当に真剣に取り組んでくれている。私もその思いにできる限り応え、デザイナーの名前の公表と、売れたぶんの対価を提供する形で、彼ら・彼女たちを応援してきたつもりだ。その中でうまれた私たちの絆は宝物であり、そしてまた今日も新しいデザイナーとの出会いを、そして思わず心が動くような作品との出会いを心待ちにしている。